補助金制度の裏側~支援者が見た現実~

以前ブログを投稿させていただいた、WebメディアのCokiさんのインタビュー記事がアップされました。(中小企業支援の光と影。補助金頼みからの脱却を – coki

記事の中では、昨今話題となっている補助金にまつわる問題点について言及しています。中小企業診断士の仲間内では常に話題に上がることですが、政策本来の目論見と実際の運用方法の間にあるギャップや、補助金制度を悪用して押し売りに近い方法で設備を販売する業者などについて、一般の方々はあまりご存じありません。今回、幅広いステークホルダーに記事を配信するWebメディアでお話ができたことは、中小企業政策について多くの方々に知っていただく良い機会になったと思います。

コロナ禍における補助金行政

長引く不況で中小企業の財務状況は年々厳しくなっていく傾向がありましたが、2020年から始まった新型コロナウイルス感染の拡大は非常に大きな打撃になりました。大企業に比べ内部留保がほとんどない中小企業に対し、まず政府が行ったのは給付金の支給と無利子無担保による積極的な融資(ゼロゼロ融資)でした。そして、業績のV字回復と今後の成長を促進すべく、鳴り物入りで始まったのが「事業再構築補助金」です。
中小企業支援の補助金といえば、ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金、IT導入補助金、事業承継補助金が一般的ですが、これら4つの補助金をあわせての予算はおよそ2,000億円です。それに対して、事業再構築補助金ひとつだけで6,000億円の予算がついたということで、中小企業庁がこの補助金にいかに力を入れていたということが見て取れます。

私と補助金との関わり

2020年の5月に中小企業診断士として独立開業した私にとって、補助金事業は活動を始めるうえでの足掛かりになりました。幸いにも補助金を活用したいという事業者から直接声をかけていただいたことから、現在批判を浴びている「補助金業者」から仕事を請け負うということもなく、経営者に寄り添いながら事業計画書策定を支援することができました。
採択率が高かったこともあり、私が取り扱った案件はほとんど支援企業から紹介いただいたものでした。あらかじめ信頼関係ができあがっていたことから、支援企業の現状や新規事業に対する経営者の意気込みを明確に受け取ることができ、的確な計画書を策定するお力になることが出来ました。そして、その結果、さらに多くの案件を採択に導くことになりました。
しかしながら、残念なことに例外もありました。単に「補助金が欲しい」、あるいは「補助金がもらえるなら○○をやりたい」など、具体的な目標もないまま依頼をいただくケースもいくつかありました。私の場合、経営者の計画書策定をサポートする形で支援しているため、具体性のない案件の場合はお手伝いができないとお断りすることにしています。

理想と現実のギャップ(補助金支援の矛盾)

かねてから、関係者の間では「補助金の支給が企業の業績向上に結び付いていない」という批判はありましたが、2023年11月に行われた有識者レビューにおいて、その批判が公のものになりました。
レビューで強く批判されたのは、類似した案件が数多く採択されていることで、これには特定の業者が自社製品を販売するために補助金制度を利用していることが背景にあります。これらの業者は補助金の審査項目を熟知しており、その項目をクリアするためのテンプレートを多くの案件で使いまわしています。彼らにとって重要なのは、補助金によって事業者の業績が上向くことではなく、補助金を活用することによって設備を販売することにあり、行政による補助の本来の趣旨とは大きく矛盾する結果になっています。

このような矛盾をはらんだ補助金制度の中で、悲しいことに、補助金を受けたために廃業に追い込まれる企業が増えてきています。
補助金は設備投資額の全体をカバーするものではなく、投資額の一部を補助するものです。例えば、補助率が3分の2の場合、投資額が3千万円であれば補助金額は2千万円であり、残りの1千万円は自社で都合しなければなりません。そして、ほとんどの企業はその資金を融資によって賄っているという現実があります。
コロナ禍では審査の緩いゼロゼロ融資が積極的に行われていたため、設備投資に対する借入のリスクを深刻に受け止めておらず、融資の返済が始まった昨年に至って資金繰りの厳しさに気づいた経営者が数多くおられます。

中小企業診断士としての使命

今回は、補助金制度を批判する内容になりましたが、補助金は中小企業支援にとってなくてはならないものです。
企業の強みを認識したうえで、市場環境を十分に分析し、適切な事業計画書を策定することは、企業の成長のためには非常に意義のあることです。そして、優れた事業計画に対し国や自治体が支援をすることは、企業だけではなく国全体が発展する起爆剤になる可能性を秘めています。
中小企業診断士の使命は、経営者に寄り添い、事業計画書の策定だけではなく計画の実施のために伴走をすることです。これからも補助金申請の支援を通じて、多くの企業を成長に導くのが私の役割だと考えています。

2月に同メディアに投稿した記事もあわせてお読みください。

2024年2月19日
Coki サステナブルな取り組み

第19回)小規模事業者が実践するSDGs

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